「ど、どういう事?」
次は、藍姉さん。余りに唐突な話に、アキはついていけなかった。
「アキは〔能力〕があるからここに連れてこられたんだろ?」
「うん。先天性何とか……っていう」
「そんなの嘘だよ」
衝撃的だった。では自分は何の為に両親と離れたのか?
「僕は呪われてるって。祈祷を受けないと悪魔に呪い殺されるって。母さんも父さんも信じちゃって…」
聞けば、時と場合に応じて口実を変えるそうだ。
「僕達には〔能力〕があるんだ」
自分の眼を指してアポロは言った。
「〔能力〕にはふた通りある。〔色〕を発する能力と〔色〕を受け止めて増幅したり、消したりする。僕は前者だ」
一瞬、アポロの両目が赤く光ったように思えた。
「軍部はその力を戦争に使うつもりだって、ヘンリーさんは言ってた。ユアンも桜美(ロウミン)も知らない。藍姉さんは気付いてたみたいだけど」
アポロは続けた。
「僕やアキみたいに〔能力〕が発現してる人は稀で、大体はその可能性あり。の基準で集められる。ヘンリーさんもその類だったし、ユアンも桜美も…藍姉さんもそうだ」
「発現しなかったら?」
「二十歳まで面倒を見て、それで駄目なら…」
その先はアキにもわかる。さっき部屋の前を引きずられていった隣部屋の室長がそれを物語っている。
引きずられていた時、彼は既に息絶えていたのだろうか。
「ここは〔ティンカーベル〕。文字通りネバーランドなんだよ」
アポロは藍と同じ事を言った。藍からの受け売りだったのかは定かではないが。
「じゃあ、藍お姉ちゃんは…こ、こ、殺されちゃう?」
「今のままなら」
「ダメッ!」
横で寝息を立てている桜美を起こしかねない声をあげて、慌てて口を塞がれる。
「何人もいた。そう言って逃げ出す奴。だけど一人も生きて帰ってこない。逃げられた訳じゃない。その度に施設の裏に、葬儀屋が来てるんだから」
月では宇宙葬にされるので墓場を造ることが少ないのだ。
「どうしよう……藍お姉ちゃ…」
涙が出そうになるのを必死に堪えて、それでも溢れる涙を止め切れずアキは泣いた。
背中をさするアポロの手は温かかった。
そして、ゆっくりアポロは語りだした。
「今度、それとわからないように藍姉さんにテストがある」
それは、いかにも子供らしい、今考えれば余りに馬鹿げた作戦だった。