足元に重い鉛をつけたように、席から立ち上がれずにいる。
気持ちの中に重い想いが蘇ってくる。
彼女の顔を見たのは初めてではなかった。いつか、それは思い出せない。
どこかで見た。感じた。
何か話している。
聴覚に働きかける声。音。
『彩…』
彩のことを思い出していた。彼女がくれたあの日のこと。
なぜ?
思い出す。
目の前にいる人は彩ではない。
いや彩じゃないか?
隣の上司たちは何か言っている。
背中にまだ初春だというのに
背中に、腰に汗が滴り落ちている。
『じゃあなにかある?』
右耳に上司から声をかけられる。
やる気のない。予定調和の投げかけ。
えっ?何もない…
彼女に聞くことは。聞きたくない。話もしたくない。
何を言えば良いのか頭の中身がまっすぐ見つめる目線の中に吸い込まれそうだ。
『…一番大事にしていることは何ですか?』
前半は言葉にならない。自分で何を言っているのかも…わからない。
目の前にいる彩は何を一番大事にしていたのか?
俺は彼女の何を見てなかったのか?
『笑顔できちんと答えることです…』
『笑顔できちんと…』
目が覚める。目の前にいるのは彩ではない。
履歴書に目がおちるとそこには『結城那美』…ゆ・う・き・な・み
志保の面影を彼女に見ながら、深い後悔に自分は包まれていた。