* * * * * *
それから―\r
食事を終えた僕達は店を出た。
店にいる間、僕はずっと彼女の話を聞いてあげた。
普通、こういう時、“ちんちくりんのハゲオヤジ”は、超悪者扱いを受けるべきなのだが、
何故か、この時の話の流れは、そうならなかった。
“ちんちくりんのハゲオヤジ”は“独身男”であった。
妻に先立たれ、父親は過去に病気で他界しており、母親も現在闘病中なのだという。
その母親の看病疲れと仕事疲れで、心も体もボロボロ状態のその男の事を悪く言うには気が引けた。
例え、ソイツが自分の大好きなヒトを泣かせた男だとしても。
今の僕の心の中を言葉で表現するなら、どんより曇った最悪な天気。
“ちんちくりんのハゲオヤジ”と彼女が別れた事実は、僕にとってはラッキーな出来事の筈なのに、
何故か僕の心は晴れなかった。
彼女が笑顔を無くしたら――
そんなの全然嬉しくもない。
彼女の笑顔を見れないのなら―\r
そんなの全然意味が無い。
―僕はこれからどうしたらいい?!―\r
『未来。“ちんちくりんのハゲオヤジ”は仕事の面で、とても尊敬出来る人だったの。
専門学校を卒業してから、テレビ局に入社したあたしは、ADという仕事に就いた訳だけど、やっぱり女優になる夢はあきらめられなかったんだよね。』
『うん。オーディションも沢山受けたって言ってたよね?』
『そう。専門学校へ行ったのも、帯広の実家から札幌へ出た方がチャンスが広がると思ったからだし。
結局、あたしは両親を騙してしまったんだよね。帯広から出た時から‥‥そして今も。』
『うん‥‥。』
『“ちんちくりんのハゲオヤジ”は、悉くオーディションに落ちまくるあたしを励ましてくれたの。』
そう話す彼女から、、もう悲しみの表情は消えていた。
僕に話す事で、少し吹っ切れたのかな。
それから僕達は、ゆっくり道なりに沿って歩いていた。
お互いに言葉を掛ける事もなく、黙ってただ、ゆっくりと歩き続けた。