失ったもの

しゅう  2008-07-27投稿
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あの


少しばかりすれた


女の子は


中学の卒業式の日


バタバタして


事件を起こして


卒業式へ行かなかった


皆の集まる式の終わった後に


初めて入る校長室で


卒業証書をいただいた


隣にたちつくす担任に



『何があっても良いけど


命だけは落とすな』


と言われて


『何が幸せかわからなくなりました』


と恵まれてぬくぬくとしたガラスケースの中にいた幼い少女は言った



先生は自分の大切にしていた


黄色くなった本を差し出した

ラッセルの幸福論だった


ずっとお守りにしていたのに


三年後


上野の公園のボートの上で


お弁当を彼氏に作ってきた少女はカバンをあけた時に



彼氏に本を取り上げられて言われた


『せめて村上春樹を読んでくれ』



少女はもう



その本をひらくことも


持ち歩くこともなく


たまに本棚で見かけて


先生に顔合わせできなくなった自分と



失ったものだけを考える

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