あの
少しばかりすれた
女の子は
中学の卒業式の日
バタバタして
事件を起こして
卒業式へ行かなかった
皆の集まる式の終わった後に
初めて入る校長室で
卒業証書をいただいた
隣にたちつくす担任に
『何があっても良いけど
命だけは落とすな』
と言われて
『何が幸せかわからなくなりました』
と恵まれてぬくぬくとしたガラスケースの中にいた幼い少女は言った
先生は自分の大切にしていた
黄色くなった本を差し出した
ラッセルの幸福論だった
ずっとお守りにしていたのに
三年後
上野の公園のボートの上で
お弁当を彼氏に作ってきた少女はカバンをあけた時に
彼氏に本を取り上げられて言われた
『せめて村上春樹を読んでくれ』
少女はもう
その本をひらくことも
持ち歩くこともなく
たまに本棚で見かけて
先生に顔合わせできなくなった自分と
失ったものだけを考える