4人で囲んだテーブルは、一晩のうちに数年分の時を重ねて、灰色に変色していた。
煉瓦やその破片が散らばる中、昨日と同じ場所にそれは置かれていた。
旅人がそっと手に取ると、すっかり枯れはてた花冠はカサリと音を立てて、崩れ去った。
旅人は朽ちかけた椅子に座り、変わり果てた景色を眺めながら、しばらくの間考え込んでいた。
だが、どんなに考えても夢とは思えない。かといってこの状況の説明もできない。
それからまたしばらく考え込んでから、ようやく旅人は立ち上がり、荷物を持って家を出た。
外から見てもやはり昨日の面影はなかった。
白い花畑だけが、昨日と変わらず愛らしく揺れている。
そこから花を腕いっぱいに抱えた少女が顔を出さないかと願ったが、呆気なく願いは風に流された。
仕方なく旅人は元来た道を戻っていった。
町の人間に話を聞いてみるつもりだった。
昔から旅の者が、森の奥で妖にかどわかされるという類の話はよく聞く。
しかし、旅人にはあの家族がそんな邪なモノには思えなかった。
現に自分はとても素敵な時間を与えられたのだ。
できるなら彼らにもう一度会いたかった。