まだ新しい道路ができる前までは、皆あの森を抜ける道を通って隣の町まで行っていた。
故に、森で暮らす一家とはほとんどの町人が顔見知りだったのである。
人が好きで、よく疲れた旅人などが通りかかると無償で宿を貸し、手厚くもてなしていたという。
十年ほど前、一人娘が隣町に嫁に行くことが決まり、娘は毎日家の前に咲く花をせっせと摘んでは、花冠とブーケを作っていた。
通りかかった人が声をかけると、恋人のことやその家族のことなどを嬉しそうに話してくれたという。
その頃には環状道路も完成して、森の道を通る人も少なくなっていた―\r
―同じ頃、隣町で恐ろしい感染病が猛威を奮った。
それは新種のウィルスで、感染率が非常に高く、瞬く間に大勢の命を奪っていった。
娘の嫁ぎ先の家族も被害にあい、看病する人もいない有様だと噂に聞いて、元来親切心の強い一家は隣町まで看病に向かった。
そして、恐ろしい病魔は一家までを飲み込み、ついには祝言も挙げれず、森の家に帰ることもできないまま、呆気なく、皆天にさらわれてしまったという…。