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病室に入ると、ユキちゃんは、ベッドの上で、何やら紙に書いていた。
熱中しているのか、僕達が病室へ入っても、こちらから話しかけるまで全く気が付かない様子だった。
『ユキちゃん、こんにちはぁ〜。』
そう言ったエリカちゃんの声に気付き、下を向いていたユキちゃんは顔を上げ、僕達の方に視線を向けた。
『未來兄ちゃんと、エリカお姉ちゃん!!』
ユキちゃんは、凄く嬉しいといった感じで、声を弾ませてそう言った。
『ユキちゃん、何書いてるの?!』
僕がユキちゃんの手元に視線を移すと、
『ダメ!!まだ書いてる途中だから!!』
ユキちゃんは、それをサッと枕の下に隠してしまった。
『ユキちゃん、よく頑張ったね。
お姉ちゃんとお兄ちゃんも、ずっとユキちゃんの事、頑張れ〜って応援してたんだよ。』
エリカちゃんは優しくユキちゃんの頭を撫でた。
母性本能ってヤツなのかなって思った。
『うん!!ありがとう!!未來兄ちゃんの“おまじない”が効いたのかもね!!』
ユキちゃんは元気にそう言って笑った。
『ユキちゃんが“ひとりあやとり”を教えて欲しいって言ってたって、エリカちゃんから聞いたよ。』
僕はジーンズのポケットから、愛用の極太の赤い毛糸を取り出し、ユキちゃんの為に用意しておいた、もう一本をユキちゃんに渡した。
そして、“ひとりあやとり”のやり方を教えてあげた。
『わぁ!!面白い!!ユキにも出来たよ!!未來兄ちゃん!!』
意外な物が受けるんだなって思った。
今時の十歳の女のコにとって、こんな毛糸一本で出来る“ひとりあやとり”の様な、古くさい遊びが、逆に何処か新鮮さを感じたのだろうと思った。
『よかったね、ユキちゃん。“ひとりあやとり”が出来るようになって。』
側でエリカちゃんが微笑んでいる。
『ユキ、早く退院して、学校行きたいな。そしたらみんなにこの“ひとりあやとり”を教えてあげるんだ。』
ユキちゃんは得意気にそう言った。