「ってそだ。名前くらい教えてよ。まだ聞いてないしら、お友達付き合いするなら知っておきたいんから」
「誰と誰が友達ですって?」
「君と僕。うぃあふれんず。どぅゆぅあんだすたん?」
返事は嘆息だった。地味に傷付く。英語苦手なんだからしょうがないだろー、なんて的外れに拗ねる。……うん、すんごくジト目で見られてる。視線が痛い。そして視線の主からもう一度嘆息をもらいました。ひぃ。
「石原さとみ」
「あっははははまっさかぁ」
「藤原紀香」
「あはははははは」
「小野妹子」
「それは男だ」
やべ、思わずつっこんじゃった。僕はボケ担当なのに。そりゃ彼女も怒るわ。視線が一層きつくなる。
「……じゃあ何なら納得するのよ」
「本名。本名プリーズ」
「嫌よ」
「ほんまムカつくだぁ、この子は、この子はぁ!!」
お国訛りで錯乱。ぐーぱんち。
「ぐはぁ……っ」
「もういいからそこで寝てなさい。もう限界なんでしょう?」
地面に倒れ伏した僕に投げ掛ける言葉はどこまでも冷たい。いや、確かにもう立っているのも辛いくらいですが。寝たら意識が、意識が、あー!!
「生きていたらまた会うこともあるかもしれないわね。そうならないように祈ってるわ。それじゃ」
そう言い残すと、彼女は屋上から歩き去って行った。……僕を置いて。そして僕は屋上のドアが閉まる音と同時に、意識を失った。
これが出会い。これが始まり。中途に過ぎない彼女と、終わりに過ぎない僕との。遅すぎた邂逅。
僕らを引き寄せた運命。それは死に似た闇色で。そこには救いなんて一片も無いのだけれど、それでも僕らは出会っていた。幻想的な夜の下、現実的な赤の上で。
それだけは、僕にとって。いや、僕らにとって、幸福だったのだろう。
Chapter1,end.
and next to Chapter2,『快気祝いに怪奇な回帰』