歩行者信号のところに来た。
やっぱり彼女は立ち止まった。姿勢良く、堂々と。
僕も並んで立ち止まる。普段、そんなことしないくせに…。ちらっと彼女を見る。彼女もちらっとこちらを見る。
軽く会釈してくれた。僕も頭を下げる。
なのに、この時は話す間もなく青信号…。背の高い彼女はすたすたと行ってしまう。長い髪を揺らしながら。
実際、彼女とまともに話せたのはそれからさらに数ヶ月後。何度か見掛けたけど、信号待ちで次に一緒になったのがその時だった。
彼女を見掛けて信号まで走って行き、汗をかきながら立ち止まって彼女に並んだ。
「偉いですね」
僕から彼女に言った初めての言葉。ドキドキしながら勇気を出して言ったのに、なんだか偉そうな言葉だ。
ここまで走って来て急に立ち止り、息を切らせながらそんな事を言う奴はあやしい…
「何度か見掛けたけど、ここで信号待ちするなんて偉いなと思って」
「そうですか?普通ですよ」
にっこりと微笑んで彼女は言う。彼女らしい答えだ。
「いや、素晴らしいと思いますよ。だってあまり見ない光景だから」
「でも、あなただって今止まっているじゃないですか」
「うん。僕も偉いのかも」
「そうですね」
二人で笑った。
とても気持ちの良い人だ。僕より少し大人な感じだけど、ずっと話していたい気がした。
少し遠回りをして彼女の家まで話しながら帰った。
「言葉では説明できなくても大切なことってあると思うんです。他の人には意味がないって思われても。」
しきりに褒める僕に対して彼女は言った。
「さっき信号待ちしていて僕にもなんとなく分かるような気がしましたよ」
単に彼女に気に入られようとして言ったのかもしれない。いや、少しはそう思った。でも彼女の顔を見て恥ずかしい気持ちになった。
「そうでしょう!」
彼女の心は綺麗で、僕は少し惨めな気持ちになったけど、もっともっと彼女のことを知りたくなった。