endo・memory14

井浦快里  2006-05-28投稿
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―曇った空を見るたびに、思う。私達は、捕われたのだと… 「………。」アクセルの前に現れた人物が、大きな城の屋根の上で月明かりに照らされている。その目は真っ直ぐに月を見ていた。人物が小さく溜め息を着き、ふと口を開く。「…この空の下で、君と僕は、会ったよね…」人物が歌い始める。音楽こそ付いていないものの、それは確かにユキが歌っていた歌だった。人物は歌詞を声に出しながら、思う。自分が何故この歌を歌えるのか、どこで知ったのか、誰に教わったのか。…どうして自分は存在しているのか…疑問ばかりが溢れては消えてゆく。自分は誰に必要とされて生まれて来たのだろうか…人物はそんな事を思い、歌うのを一瞬やめる。いや、戸惑ってしまった。それならこの唯一の記憶の欠片である歌は一体何なのだろう?ただの偽物?そんな事を信じたくなくて、人物は頭を左右にぶんぶんと振る。その時、人物の後ろに誰かが現れた。人物が後ろを向くと、そこにはもう一人、黒いマントをかぶった人物が立っている。人物が口を開いた。「…リコード、こんな所にいたのか…」リコード、と呼ばれた人物がまた月に向き直る。「悪いか?」リコードに言われ、人物は口を曲げて笑う。「ハハ…そんな事は無いさ。たった今、いい情報が入ったのだから。」「…情報?」リコードは横目で人物を見た。人物がおかしくてたまらないとでも言うように笑い出す。「くく…これはまた面白い情報だったよ。聞くかい?」リコードは人物のからかうような口調に気をいら立たせながらも人物に振り返る。「教えろよ、カイ。その情報ってヤツを…!」リコードの強い眼差し、カイはフッと笑うと、喋り始めた。「機関のノータイムがここに集結する。」それは隠語にも似た言い方、リコードはその意味を理解し、立ち上がる。「ああ。」今は、“あれ”の完成を願うしか無い。あれが完成すれば、俺達は自由になれる。そう頭の中で自分に言い聞かせながら、リコードは歩き出した。カイも歩きながら言う。「エンド・メモリーよ、我らにかけられた時の鎖を解きたまえ…」にやりと笑ったカイの姿が、月明かりに照らされた。



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