「み、緑です……」
一か八か、藍は賭けた。
「……確かか?」
研究員は隣の男に尋ねた。
すると、その男は閉じていた目をかっと開いた。ぞっとする、白い目だった。
「……間違いない」
「ふむ。じゃあ次」
研究員は檻の中のウサギを指した。
「何色だい?」
今度は、何色だ?藍は待った。
黄色だ!
また、どこからか声がする。
「黄色です…」
研究員はちらと、隣の男を見る。
「…確かに」
研究員はふうっと息を吐くと、上機嫌になってこう言った。
「合格だな。はぁ、よかったよかった」
藍の顔写真の貼ってある書類に大きな赤丸のハンコを押すと、藍に向き直って言った。
アキが見て、アポロが伝える。作戦は大成功だった。
「やったー……!」
小声で歓喜の声をあげ、二人は笑いあった。
もちろん、見つからないように、だ。
試験官もよろこんだ様子で書類に何かを書き込んでいる。
これで藍は助かる。
少なくとも、アキもアポロもそれを素直によろこびあった。
「シッー!見つかるよ!」
目配せしながらもアポロも笑いを止められない様子だった。
やっと落ち着いて、二人は押し黙った。
沈黙が流れたからだろうか。
その後の試験官の言葉がやけに、よく聞こえた。
「かわいそうにな……。死んだほうがよかったって思う日が必ずくるぞ。くくく……」
二人は固まった。
「ナンバー1205。お前はこのまま、首都アルテミアの〔月立戦略兵器研究所〕に送られる。部屋には帰れないぞ。このまま行く」
そう言うと、研究員は傍らの男達に目配せした。
藍は男二人に無理矢理立たされ、歩かされる。
「いや!やめてってば!」
「あそこはヤバいぞ………くくく、正解率100%を引き渡したとくれば、俺も幹部に……くくく」
試験官は天井を仰ぎ見、肩を揺らして笑った。
ダメだ。アキは震えが止まらなかった。
藍が連れていかれる。
自分のせいで?
藍が酷い目にあわされる。
自分のせいで。
アキは何もわからなくなり、隠れていた物陰から立ち上がり、叫ぶ
「やめろ!!!」
だが、それはアキの口から発せられたものではなかった。
「アポロ!?」
傍らを見ると、凄まじい形相のアポロが立ち上がり、一点に男達を睨み付けていた。
両の瞳に邪悪な〔赤〕を灯して。