「わぁ、海だ。ユウちゃん海に着いたよ。」
アイは海が待ち切れない様子で電車の窓から顔を出し、無邪気な笑顔を見せていた。アイな髪が風に揺れて靡いている。
「アイ、もう着くから慌てるなって。ほら、危ないから頭を出すの、やめろって。」
諭すような口調で言い、僕は電車のシートの上に広がった荷物をかたずけ始めた。
電車を降りて、歩いて十分程で目的の海へ着いた。「着いた〜。海なんて久しぶりだね〜。ね、花火しようよ。」
「まだ、花火はお預けだ。夜まで待たなきゃ。」
アイの花火好きは相変わらずだ。認知症だとしてもアイはアイだ。
「じゃあ何すんの?ユウちゃん。」
「そりゃあ、海に来たら泳ぐしかないだろ。嫌か?」「そんな訳ないよ。行こう。」
アイは俺の手を引き、海へ飛び込んだ。そして、もう体が動かなくなるまではしゃぎとおした。気が付けば夜になっていた。
「ふ〜。疲れた。もう夜だからそろそろ花火でもするか。アイ。」
「うん。花火花火〜。」
疲れを知らないのか、アイは昼間よりもはしゃいでいる気がする。
僕は線香花火を二つとり、片方をアイに渡した。8ヘ