「よし、お仕事しゅーりょー」
グッ、と背伸びをする。
〇〇出版のビルから出ると、夏の陽射しが僕を襲った。しかし、仕事が終わった爽快な気分には、その陽射しすら心地がよい。
「さてと、じゃあ帰りますかね」
ヘルメットを被り、バイクに跨がる。キーをさそうとすると、横から声をかけられた。
「やぁ、久しぶり。元気だったか?」
聞き覚えのない声だったので、顔を確認すると見知った顔だった。
「お久しぶりです。恋さん」
聞き覚えのない声だったのは、僕のヘルメットがフルフェイスタイプのモノだったかららしい。失礼だと思ったのでヘルメットを外すと、恋さんの声はいつもどおりの声だった。
「また代筆の仕事か?繁盛してるみたいじゃないか」
「おかげさまで。恋さんはどうしたんですか?こんな時間にこんな所で」
「なに、このビルに某国のスパイがいるらしくてな。それの張り込みだ」
「相変わらずとんでもねぇ仕事してますね。ま、頑張ってくださいよ」
「いや、さっき終わった。国家組織のヤツに引き渡したし。いやぁ、毒ガス使おうとしやがってさ。危なかったなぁ・・・」
「とんでもねぇなんてレベルじゃねぇ!?いや、あんたもなに浸ってんだよ!」
恋さんこと桜屋恋は、僕と同じなんでも屋だ。
夏でも黒のコートに黒スーツというバリバリのキャリアウーマン風な人。
僕みたいななんでも屋ではなく、大企業や国家の仕事を請け負う人だ。この人に誘われて僕はなんでも屋になったのだが、それはまた違う話。
「ハハハ、解決したんだからきにするなよ。とりあえずは今日は空いてるか?アタシは明日の昼までオフなんだけど」
「空いてますよ。飲みにいくんですか?」
「ああ、いい店見つけたんだよ。上手いメシを出すんだ」
「いいですね。いきましょう。じゃあ車で先導してくださいよ」
「わかった、車まわしてくっから待ってろや」
カッコイイ姐御だなぁ。