「それでは早速探しましょう」
彼女は自転車の特徴を私に聞いてからそう言った。手分けして探した方が効率がいいのではなどという野暮はくたばるが良い。
そうして、私と彼女は初めての共同作業を始めることとなった。私が自転車を探すことよりも、無意識の内に彼女の後ろ姿を見つめることに精進していると、彼女は度々「これじゃないですか?」とか「もしかしてこれですか!?」などとその可愛らしい顔で振り向くので、その度に私はドキッとせざるをえなかった。そして私が首を横に振る度に悲しい顔をする彼女がとても愛しく思えた。
私はさっきまで愛車を失い絶望の淵に立たされていたというのにこの胸の内から湧き出てくるホクホクしたものは一体何なのだろうか。これが恋というものなのだろうか。それとも一夏の魔法とやらなのだろうか。
まぁ正直のところどちらでもよい。今の私は彼女と歩いてるこの時間がこの上なく幸せに思えているからだ。なんなら一生自転車など見付からずずっと彼女と一緒にいたいと思う程である。
私が真夏の直射日光にやられながらそんなことばかり考えているとふと彼女は振り向いた。
「こんなに探して見付からないのですから無いのかも知れませんね……」
彼女は整った美しい眉を八の字にして頬に手をあてた。そう言われて気がついたがいつの間にかこんなに時間が過ぎてたのか。私は相対性理論を憎んだ。
「すいません、手間を掛けさせてしまって……。後は自分で何とかしますので。ありがとうございました。」
私はぺこりと頭を下げた。
「こちらこそお役に立てずにすいません」
そういって彼女もぺこりと頭を下げた。私が「いえいえ」と手を顔の前で振ると彼女は何かを思い付いたのか、顔をパっと明るくし両手をペチンと叩いた。
「そうです!自転車が後でお店で見付かったりあなたが見付けたりした時に、お互い報告できるよう連絡先を交換しておけば良いのです!」
彼女はにっこりと微笑んだ。
私は危うく、もしかして彼女は私に気でもあるのでは?と盛大に勘違いしそうになった。
そうして彼女と私は連絡先を交換した。
自転車と引き替えにまさかこんな素敵なプレゼントがあるとは。
不謹慎かも知れないがその時の私は、「自転車もたまにはなくしてみるものだな」と思った。