『そろそろ時間だから行くね。』
出発時間の三十分前というだけあって、手荷物検査をする為に並ぶ人の多さで、
僕達にとって最後の言葉を交わす場面さえも、決してロマンチックとは言えなかった。
『向こうに着いたら、こっちとの気温の差が激しいから、体調には十分気をつけてね。』
僕が彼女に掛けてあげられる精一杯の言葉だった。
『うん。ありがと。』
徐々に前に進む人の流れに付いて、僕は彼女の横に寄り添って歩いた。
彼女が手荷物を係員に差し出す直前、僕に最後にこう言ったんだ。
『未來。再会出来た事‥‥本当に嬉しかった。』
『僕も。嬉しかった。ありがとう。』
彼女は静かに微笑んだ――
その笑顔は、確かに僕の瞳にしっかりと焼き付いた――
だから僕は、この夏の経験を、僕と彼女との最高のひと夏の思い出として、
何時までも僕の心の中に忘れる事なく残しておこうと思う。
何時までも――
時の流れに、色褪せる事もなく――