貴方はやさしい人。
だから。
私と別れるんでしょう?
〜やさしい人。〜
「俺たちさぁ。もう別れよう」
雨がしとしと降っている。でも彼の声は私の耳にちゃんと聞こえた。
「………うん。いいよ」
出た声は思ったより小さく、擦れていた。
最近彼はよく怒るし怒鳴る。私を殴ったりもする。体中、あざでいっぱいだった。
「……うん。じゃあ、ここでお別れだな」
「…元気でね」
「お前もな」
………ぁ……
久しぶりに見たな。彼の笑顔。
"じゃあな"と軽く手を振って私に背を向けた。そして歩きだす。
彼の肩が小刻みに震えてるのは
寒いせいかしら?
それとも―――……
どっちでもいいわ。
もう私と彼は此処でおしまい。
そう思うと何だか刹那くて
私は彼に気付かれないように
こっそり
涙を流した。
もう見られない顔。
感じられない温もり。
全部愛しくて
涙と一緒に
思い出も
流すことにした。
END