気持ち次第で、何でもできる。
そう思っていた時があった。
俺は、天才なんだと。
左足の大腿部の痛みに顔を顰め、それとともに我に返る。
確かに、人より優れていると言われるようなような点は、多いかもしれない。
だけれど、それは違った。
自分自身への己惚れこそが、半端な才気の証しだと、どうして誰も教えてくれなかった。
何故気付けなかったんだろう?
―――堕ちていく。
二つの意味で。
本当なら、怪我なんかをするような相手じゃなかったはずだ。
何が変わった?
―――全て、が。
自答を他人の声のように感じる。
かしゃん。
金属音が、空気を震わす。
長い間握りしめていて、白く冷たくなった手が、自分の頬に触れる。
親鳥の元の小鳥に似た心地よさに身を委ねながら。
堕ちる。
墜ちていく。
もっと。もっともっともっと。
深くまで…………
急激な魔力の高まりを感じて、妖需が飛び退くのと床がはじけ飛ぶのは殆ど同時
だった。
「妖需!!何処にいる?」
「10時方向!そんなに遠くない!」
こういう時には、魔力の探査能力が高い妖需が追尾の役目をする。
道の相手を前に、初めに動くのは一番体が強くできているディル。
そんな役割分担が、自然と出来上がっていた。
何時もの如く、走り出したディルを黒い影が追い抜いた。
漆黒の法衣が、半開きのドアの隙間から滑り込む。
直ぐに上がった掠れたような悲鳴に、妖需らははっとなった。