最後まで読み終えた時、ずっと助手席のドアを開けずに外に立っていたと思われる彼女が、
わざと今来たばかりという風に、助手席に乗り込んだ。
『あは。未來。読んでくれたんだね。』
彼女はジュースホルダーに缶コーヒー2本を置き、スケジュール帳に、ユキちゃんの手紙を大事そうに挟み込んだ。
『“おんなとおんなのやくそく”だったんだね。』
『あたし‥今日、このユキちゃんの手紙を、こうして持って来たのは、未來に見せる為だったのよ。』
『本当に?!』
『うん。本当よ。あたし昨日ユキちゃんに会ったの。
その時にユキちゃんの許可をちゃんと得たわよ。』
そう言えば、ここの所僕はユキちゃんに会っていなかった。
この1年間、退院して元気になったユキちゃんと何度か会ってはいたが、
エリカちゃんは、現在住んでるアパートからユキちゃん家が同じ札幌市内という事もあり、
僕よりも何度か多くユキちゃんと会っていた。
『でもさ、エリカちゃんにだけ教えてくれたユキちゃんの“能力”の秘密を、どうして今更、僕に教えてもいいなんて言ったのかな。』
『うふふ。そうよね。』
『別に僕は、知っていても、知らなくても、エリカちゃんへの思いは、ずっと変わらないけど。』
『ユキちゃんね、もう“ぜんせ”が見れなくなったんだって。』
『えっ?!どうして?!』
僕はエリカちゃんの言葉に当惑してしまった。
だって、たった今手紙を読んで知ったばかりのユキちゃんの“不思議な能力”が、
今のエリカちゃんの話では、“もう使えなくなった”というのだから。
『ユキちゃん‥女の子になってから“不思議な能力”が使えなくなったんだって。』
『女の子になったって?!ユキちゃんは元々女の子じゃん。』
『んもうっっ!!未來の鈍感!!もういいわ!!』
何故か、助手席の彼女は拗ねてしまった。
う〜〜ん。やっぱり僕には女のコってよく分からない。