星の蒼さは 105

金太郎  2008-08-05投稿
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純白の部屋に赤い染みが小さな池を作り、その中心に男が二人、力なく浮かんでいた。
沈黙の中、アキの嘔吐の音と、そしてアポロの狂ったような笑い声が響くのみだった。

「凄ェ!凄ェ!!これが〔オレ〕の力なのか!?死んでやがる!」

歳不相応にも思えたアポロの紳士的な口調もどこかへ消え去っている。

こちらが地の声なのだろうか。

アキは涙でユラユラする視界の向こうで、研究員のリーダーが恐怖に怯えて腰を抜かしたのを見た。

研究員は近くの椅子に捉まりながら傍らの〔能力者〕である部下に奇声を上げながら命じた。

「こ、殺せ!!殺して構わんから!私を守れ!」

一瞬、眉をひそめたものの、彼はすぐに銃を構え、天を仰ぎ爆笑するアポロを狙い定めた。
そこでアキは気付く。


「アポロ、危ない!」


の声が出ない自分がいることに。

そのままアポロが撃たれてもいい。そう心のどこかで願う程、彼に怯える自分がいることに。

絶望した。


「お前も死ね」


そう聞こえたのはその瞬間だった。

自分が言われたのかと思った。
しりもちをつき、後ろにズルズルと下がる。

殺さないで!!

アキは、声にならない悲鳴をあげた。

だが、それはアキに向けられたものではなく、研究所の〔能力者〕に向けられたものだった。

さっきと同じ。

一瞬の間が空く。

そして、男もまた、奇声をあげる。

額に青筋を立て、白目を剥いて転げ回る。

血だまりになった床に仰向けに倒れ、唸り声をあげて、頭と足をつっかえ棒にして反り返る。

男は頭を抱え、髪を掻き毟った。ブラウンの長髪がブチブチと千切れ、抜ける。

怒っているのだ。

何かに。


男は焦点の定まらない目をクルクルと回し、床に落ちた銃に気付く。

真っ赤に上気し、掴み掛かる勢いで銃に飛び付き、ヨダレを撒き散らしながら立ち上がった。

「キ、貴様ァッ!屍ぬェ!!」


ブツン


断末魔のように絶叫し、男は額から噴水のように血を噴き、再度、直立不動で仰向けに倒れ、石造りの床で後頭部を強打して死んだ。

後頭部からも噴き出した血液は床に平面に広がり、まるで押し花のようだ。


「いやァァァァ!!」

アキはホラー映画さながらに悲鳴をあげた。

隣で試験官がしりもちをついて呟いた。


「そんな…吸収しきれなかったのか…?」


試験官は失禁していた。

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