山間の小さな町は、ひっそりと夜の闇に沈んでいた。完全に眠りについた世界を、青白い月光が優しく照らしている。
紺碧の夜空に、白銀色に輝く階段が伸びていた。遠くから見るとそれは白い虹のようにも見えた。
その階段を、一心に上り続ける少女がいた。
淡いブルーのパジャマのままで、白い光の階段を一歩一歩、裸足で踏みしめていく。
不思議なことに上れば上るほど、月はみるみる近づいてきた。
でこぼことした表面がしだいに鮮明になってくる。
それでもまだ眼下には、家々の屋根がうっすらと見て取れる高さだ。
―と、少女は下を向いたことを後悔した。こんな高い所に自分は生身で立っているのだ。
膝が震えないようにじっと恐怖を押し殺した。
こうなったら一刻も早く上りきるしかない。意を決して再び上りはじめた。