亜紀の事は瞳には話さなかった。いや、話せなかった。
亜紀以上の存在を僕は期待していなかったから。
瞳は、やはりまっすぐで曲がった事が嫌い。不器用な、そして真面目な子だった。
いじめの原因はいろいろあるけど、周りに理解出来ないまっすぐな心、これは多くの人間にとって、ねたましいものなのだろう…。
僕は真面目な子に弱い…。人気のない信号を二人で待っていた時、思わず瞳を見つめ続けてしまった。
「どうしたの?」
「えと…、何だか僕ら小学生みたいだなと思って」適当にごまかす。
「そうね。手を上げて渡ろっか?」手を上げて無邪気に歩こうとする瞳。道路に少しはみ出してしまったその時…。
急に凄いスピードで車が近付いて来る。
「危ない!」手を掴んで引き寄せる。
大きな音を立てて車が過ぎ去ったあと、
「危ないなあ」僕は少し腹が立ったけど、人気がないのと、瞳を抱き寄せている自分に気付く。
「ありがとう。」そう言って瞳も抱き付いたまま離れない。
腕の中にすっぽり入る小柄な瞳を僕はしばらく抱き締めていた。
「私、裕樹君が好き」か細い声で瞳は言った。