幼い頃、私は家に帰ると何でも母さんに話した。
その日楽しかったことや驚いたこと、それから悲しかったことまで、何でも。
母さんは笑いながら、時に真剣に聞いてくれた。
夕飯の支度で忙しい時でさえ、耳は私の方を向けてくれていたに違いない。
ただの一度だって静かにしなさいなんて言われなくて、私の話を何でも聞いてくれたから私は、母さんには何だって話せた。
あれから何年か経ち私は中学1年生になっていた。大人に近付いていた。恋だってなくはない。
母が、その日は珍しく夕飯の支度を手早く済ませていて私が帰ってきて顔を合わせると同時にこう言った。
『涼ちゃん好きな人いる?』
それまで私は恋と呼べるものは、少しはしてないこともなかったが母さんには話してなかったし、突然のその言葉にどうしていいかわからず…。
『なんで?』
とだけ答えた。
『母さんには何でも話してほしいなぁなんて思ってね、恋愛のこともね。』