「生きてるって、楽しいか?」
白い。窓に掛けられ、陽光を透かす薄手のカーテンも。清潔に輝く真新しい天井も。ベッドもシーツも壁もチェストも、僕の視界に写る全てが、白い。だからだろうか。掛けられた言葉が、いやに白々しく聞こえるのは。一笑に付そうとして失敗し、は、と引き攣った笑い声が口から零れた。僅かに、冷笑の気配。……いいさ。幾らでも笑えば。
「言いたいことが分からないな、海潮(みしお)」
「色んな制約があって、色んな事に縛られて。なんにも自由に出来ないそんな人生に、価値は有るのかって事」
「分からないって言ってるんだよ、僕は。言いたいことが有るならはっきり言ってよ」
「まぁ、つまりアレだ」
くつくつと喉が鳴る音が聞こえた。可笑しくて堪らないのだろう。隠しきれない愉悦を声に滲ませて、海潮は僕に告げる。
「何が楽しくて三週間もの間ベッドに縛り付けられてるんだ、ってコト」
「何も好き好んでやってるわけじゃないよ」
文字通りベッドに縛り付けられている僕を指差して、海潮――僕のクラスメイトだ――は顔を歪ませた。ムカつく顔だ。ぶん殴ってやりたい。……無理なんだけど。本当にロープで括り付けられてるから。
「しっかし、お前何したんだよ。ベッドに縛り付けられる怪我人なんて初めて見たぞ」
「……別に、なんにもしてないさ。ただちょっと、夜中に抜け出してコンビニに向かっただけで」
「何回?」
「それは正しくない表現。毎日、だよ。だから実質十何回」
「馬鹿だろ。お前、自分がどういう状況か分かってんのか?」
「全治三週間の大怪我。刃傷沙汰なので病院はNG」
そうなのだ。あの夜、あの少女に受けた傷は存外に深かったらしく、完治するのに一ヶ月近くかかると診断されてしまった。その上明らかに誰かに刺された傷だから、普通の病院に行こうものなら警察沙汰になってしまうと言う状況。学校に不法侵入していた僕にとってそれは大変に有り難くない話だ。内申に響くし。信じられないかもしれないが、こう見えて僕は学校では優等生で通っているのだ。と、いう訳で。現在の僕は先輩の家でお世話になっていたりする。