星の蒼さは 107 第七話    帝ロ シ ア國

金太郎  2008-08-11投稿
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“あんたさぁ、客が来てるのに普通寝る?”

「え?あ、ごめんね!」

長い、永い夢だった。両親と別れた事、名前を奪われた事、余りに長い悪い夢。

本名アキ・シラユキを名乗ってはいけない。
アポロは度々アキに言って聞かせた。

支配欲と独占欲からくる身勝手な略奪。

“ルナ”

これが今の名前。

それでいいと諦めていた。殺されたくないから。

では何故、自分はあの日、戦いに敗れて捕虜になったあの日。
ハルに本名を教えたのか。

さかのぼるなら何故、あの晩、白雪降りしきる大晦日の晩。
“ザ・ゴッド・オブ・デイ”の攻撃から赤の他人だったハルを助けたのだろう。

“運命の人だからよ。こいつが”

何を考えているかわかったのだろう。藍が思考に割って入ってきた。

「藍お姉ちゃん…?」

“ん?何よ?…ロマンチストじゃないわよ。真実。こいつはあなたが求めたからあなたの近くにいるの”

「?」

“いつかわかるわ”

〔色〕だけを通してアキに会いに来ていた藍はふっと笑うと、立ち上がり出口に向かって歩いていく。

“そうそう。もうそろそろ身体も動くと思うから。頑張って”

「帰っちゃうの!?」

驚くアキに振り向いた藍はにっこり微笑んで言った。

“ダメよ浮気しちゃ。その男の子すごく一途よ。あんたの事しか頭に無いみたい”

「だからそんなんじゃ……!」

“フフ、かあーいぃ。じゃ、また、会いましょう?”


そう言うと、彼女は再び藍色の光に変わり入り口のドアを擦り抜けていった。



(では我々はこれで)

(へ?)

(用は済みました。迷惑をおかけしました)

(…済んだって?)


先程まで激しい口論が行われていたにも関わらず、素っ気なく帰っていく藍を見て、滝川艦長と荒木副長はさぞや拍子抜けしている事だろう。

アキは意識を肉体に集中させていく。

疲労から鉛のように重かった身体がすっと軽く起き上がる。

ハルが必死に看病していてくれたからだ。

ハルは、今まで藍がいたことに全く気がつかずにベッドに突っ伏してイビキを立てている。
アキと藍の意識の中でのやりとりなので当然だが。


(運命か……)


藍の言葉を思い出して心の中で呟く。

自分はかなりロマンチストな方だと思う。

だからそうであって欲しい。

アキはハルを起こさないように顔を近付け、耳にそっと口づけした。



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