「・・・再婚、したいねんけど。」
肌寒さをほのかに残した四月某日、午前七時過ぎ。
窓から覗く桜並木は満開で、青空では雀たちが嬉しそうに声を上げて風をきる。
カーテンからは暖かい日の光がこぼれ、やんわりと室内を照らしていた。
まさに、希望の朝と名付けるにふさわしい。
そんな爽やかな情景とは打って変わり、ダイニングテーブルに向き合って腰掛け、日本の伝統“納豆かけご飯”をひたすらほうばる二人の長身の男達。
一人は灰色のスーツ、もう一人は真っ黒い学ランに身を包む。
傍らに置かれたテレビには、朝定番のニュース番組である『おめざめテレビ』が流れている。
おじさん達に人気の美人女子アナウンサーが、溢れんばかりの笑みを湛えて今日のニュースの原稿をすらすら読む。
大きな事件もなく、平和な一日になりそうである。
まあ、時間確認の為につけられているのであって、別段、内容は気にしていない様子ではあるが。
遠くからは唸るように鈍い機械音。
どうやら洗濯機の様だ。
キッチンのコンロに置かれたケトルからは、先程湯を沸かしたばかりなのか、湯気がふわふわと終わりなく上がっていた。
生活感丸出しの風景である。
さて、余計な話はこの辺にして本題に入ろう。
今まさに幕が上がろうとしているこの物語の主人公は、無言で“納豆かけご飯”をほうばる、この学ランの少年。
背の高さの割にひょろりとした痩せ型。
ワックスで遊ばれた少し長めの髪は、光に当たって不自然に明るい色をしている。
前に座るスーツの男の容姿はどことなく少年を思わせるものがあった。
この時、少年はただ、目の前の“納豆かけご飯”を食べるのに夢中だった。
これから、自分の身にふりかかる運命の断片にすら、気付く由もなかったのである。