夏祭りの次の日、東京に帰る僕をナナは泣きじゃくりながら離そうとはしてくれなかった。
母さんがなんとかなだめてくれたけど、最後までしっかりと握りしめていたナナの手の強さは今も忘れていない。
あれから15年が過ぎた。
「父さんいつまでネクタイなおしてるんだよ」
「コータ、先に行っててくれ。父さんあとからいくから」
「ちゃんと来るんだからな?ナナ待ってるんだから」
「わかってるわかってる」
トイレの鏡の前でしきりにネクタイや髪型を気にしている父さんをそのままにしてトイレをでる。
式場の案内板で場所を確認して目的の部屋にたどり着く。
新婦控え室、そう書かれた扉をノックすると中から母さんの声がした。
「はーい」
「コータだよ」
「コータ!ナナ!コータが来てくれたわよ!」
扉を開けて中に入ると鏡台の前に座っていたナナが立ち上がってこっちを振り向く。
「お兄ちゃん!来てくれてありがとう!」
ナナは、あの夏祭りの白い金魚のように真っ白な純白のウェディングドレスを着て微笑んでいた。
「お兄ちゃん、どう?似合ってるかな?」
ナナが頬を少し紅く染めながら聞いてきた。
「うん、よく似合ってる」
素直に心からそう思えた。
「おめでとう、ナナ」
Fin