『拗ねてる訳ねぇだろ。ガキじゃあるまいし。』
カチッ――
ぼそっと一言呟いた聖人は、煙草に火を点けた。
『奈央ちゃん。もう、コイツは天邪鬼と言いますかねぇ‥‥。
どうしてこう素直じゃないんやろな。
未成年の分際で、親の私の前で堂々と煙草なんぞ吹かしやがるし。
何てったって、私のバイクを無免で乗り回すんやからな。
恐らく、学校内でもとんでもないワルなんやろな。』
聖人のお父さんの言った言葉は、確かに正しいコトだとは思うケド‥‥‥。
聖人にだって、良い所がいっぱいいっぱいあるんだから。
だって――
聖人は決して“ただのワル”なんかじゃないし。
凄く――
他人に対して思いやりがあるし。
絶対に――
自分より弱い者を苛めたりなんかしないもん。
『おじさん。聖人は“ただのとんでもないワル”じゃないです。』
あたしは思わず呟いた。
『ははは。そうかぁ。分かった。
聖人‥お前、奈央ちゃんにここまで想われて、幸せなやっちゃな。
奈央ちゃんの事は、大切にしてあげるんやで。』
『さっきから、いちいちうるせぇよ。
親父にんなコト言われなくても、俺は奈央のコト、大切に思ってるし。』
そう言ったトキの聖人の目は、真っ直ぐあたしの目を見てた。
ずっとずっと、あたしの目を見てた。
『まぁ‥‥な。俺も聖人位んトキは、やんちゃやったけどな。
やっぱり“血は争えない”って言うけれども、ほんまにそう思うわ。』
そう言った聖人のお父さんの表情が、
少しだけ寂しそうに見えた。
『おっ。奈央。この里芋なんまら、うっめぇ〜〜!!』
聖人が、母の作った“旨煮”を食べながら言った。
『あは。ありがと。そう言ってもらえたら、お母さんも喜ぶと思う。』
『親父!!奈央の母さん、弁当屋で働いてんだぜ。
今度、昼飯んトキ、弁当買ってやれよ。』
不意に聖人が、思い出した様にそう言った。