死んだ、そう思っていた。
「ここは、どこだ?」
すくっと起き上がり、ポツリと言った。
まわりを見渡しても何も見えない。ただ、暗闇がどこまでも続いている。
そこで、トオルはひらめいた。
「そうか、ここは天国なんだ!でも、天国ってこんなに真っ暗なのか?」
そんな空想を広げながら、何分かそこに座っていた。
すると、目がだんだん慣れてきて、少しずつ見えるようになった。
「俺はベッドに座っているのか、横にもベッドが置いてあるぞ。」
トオルは、四十歳にもなって、好奇心が旺盛だ。ためらうこともなく、横のベッドの布団をめくり、こう言った。
「不気味だ、死体が置いてある、ここはまさか。」
トオルは、この一瞬で全てを把握した。小さい頃から勘は鋭い方だ。
「ここは霊安室だ!俺は、死んだと勘違いされたんだ!」
自分に言い聞かせるように続ける。一人で。
「じゃあ、アキコは俺が死んだと思ってる。愛すべき俺が死んだと!」
早く家に行かなくては、と思ったが、
「待てよ、なんか楽しくなってきたぞ。驚かしてやろう!」
それから、子供たちのことも思い出した。
「あいつらどうしてるかな?ワーワー泣いたんだろうなあ。」
そう思うと、本当に楽しくてたまらなくなってきた。
「とりあえずここを出よう、こんなとこおさらばだ。」
なんとか病院を抜け出し、夜だということが分かった。知っている病院だとも分かったが、何時かまでは分からない。誰か知り合いに見られて、騒がれると面倒だと思い、裏道を通って行くことにした。
「俺は生きてる!」と大きく心の中で叫んで、トオルは病院を後にした。
ー続くー