「南東1200キロに熱源感知。熱量、パターンから【プロミネンス】と思われます」
「そ」
「中国軍は、多大な被害が出た模様。テファロフ卿、急がなければ」
「わかっているわ」
【神聖ロシア帝国】皇帝近衛騎士団団長エカチェリナ・テファロフ辺境伯はそう答えた。
アメリカ合衆国危うし。との報告を受けてからの陛下の判断は迅速だった。
中国との国境付近には既に第三皇太子マカロフ率いる【第一騎士団】及び、【第三騎士団】が展開している。
アメリカと中国はこの先にあるワシントンのみならず中国国内の山東省辺りでも死闘を繰り広げているという。
さらに皇帝は事前に結んでいた中国との不可侵条約すら、月との戦いに専念する口実で破棄。
全くの中立という立場をとった。
そして、中立でありながらの今回の出撃。
いつもながら陛下には驚かされる。
世界最大最強の艦、弩級戦艦【アレクサンドル】を旗艦とする近衛騎士団は進む。
五百の砲門を始めとする圧倒的火力。百のWWを搭載するこの艦は偉大なる神聖ロシア帝国の栄光と力の証。
全世界の国家に皇帝陛下の武威と正義を示す時が近付いている。
エカチェリナは一人、微笑んだ。
自分が一国の、いや、世界の運命を決めるという感覚は、何かエカチェリナの【女】の部分を熱くさせるものがある。
報告に来た騎士が、ぱっと顔を赤らめたが、彼女は気がつかなかった。
「陛下の御為、私も【イヴァン】で出る!」
【串刺し】エカチェリナの異名の由来、ロシア帝国最高峰の機体【イヴァン】が起動を始めた。
「一体どれだけいるんだ!?」
ライフルを放ちながら、ハルは叫んだ。
このWW【ミカエル】の参戦により、戦局は持ち直したと言える。ホワイトハウスの北20キロまで迫っていた人民解放軍はミカエルの一撃により大きく後退。味方の士気も上がり、互角の戦いとなっている。
が、元々の数的絶対不利は変わらない。いつ、流れが敵に傾くかわからない。
【プロミネンスシステム】の多用もアキの事を考えると避けたい。
大丈夫だと言っているが、アキに苦悶の表情が浮かぶのがわかる。
通常兵器を使っての戦闘でも、ミカエルは他のWWを遥かに凌ぐだけの性能を持つが、あくまでWWとしての性能で、戦略兵器にはなりえない。
空から見る戦場。
戦局は再び中国軍に傾いていた。