………――――!!!
掠れ、ぐぐもった悲鳴が辺りにこだまする。
それでも尚、漆黒が動く気配は止まらない。
「待って……!その人は―… 」
妖需の声が届ききる一瞬前に、フィレーネの声が上がった。
「…その声は……楔姫…か…!?」
――え?
必要性が無くなり、走るのを止めたディルと追い付いた妖需の視線が交錯する。
二人のそれには混乱が滲み、それは、フィレーネと"彼"の間でも同じの様だった。
「どうしてお前が此処に……それに、その脚は――」
言いかけた"彼"の視線の端で、突如空気が揺らいだ。
いち早く状況を察知した妖需の風矢が、正確に異変を襲うが、浮き出た魔法陣は光の密度が増し、魔力が刺激となって肌を挿す。
「転位式……!召喚術だよ!!」
徐々に魔法陣は中心へと収束し、光の柱が通路の低い天井へと上がる。
不吉としか言いようの無い、赤々とした光の中から、一直線にフィレーネへと腕が延びる。
大小様々な鱗に覆われたその腕は、確かに人の形をしていて。
痺れの効果を持つ風矢、毒が塗られた風矢、どれもたいした効果が見えない。
「無駄だ」
"彼"の冷静な声に、妖需らだけでなく赤の魔物も、一瞬びくりと動きを止めた。
「表面を削っても、自然治癒力を高められている。爆発的な動力を貯蔵する為の臓器がある筈だ。そこを狙え」
"彼"の一言一言に、魔物がびくりびくりと反応をする。
「そうだろう?弟よ――……」
"彼"の口の中呟きは、とても小さくて。
だけれど、周りに嫌になる位に反響して。
嫌でも、フィレーネの耳に届いた。
「先に行け、兄弟よ。」
「私も、必ずそこへ行くと誓おう」
同じ罪を背負って。
同じ痛みに哭いて。
真っ黒な霞と爪が、赤い体を貫いた。