「ゆうじ、たすけて」
囁くような声だが、確かに聞こえた。聞き覚えはないが、女性の声だ。しかし、いきなり電話してきて、助けてと言われても、状況が分からない。しかも、相手は呼び捨てにしている。返事に困っていると、
「あたしの、
マンションよ」
と、さらに低い声で言ってきた。ますます分からない。少し疑った調子で、聞いてみた。
「誰なの?
マンションて何?」
すると、この返事が来る前に、電話の向こうで、物凄い音がした。何かが、ぶつかる感じの。女は、悲鳴をあげたあと、
「早く、早く来て」
そう言って、電話が切れた。余りにも一方的な振る舞いに、男はしばし呆然としたが、誰かの悪戯だろう、それしか考えられない、そう思う事にして、毛布をかぶった。しかし、これが奇妙な出来事の、始まりだという事を、男は知らなかった。