(ハル!後ろ!)
「うわっ」
あおかぜオペレーター、美樹が怒声をあげ、反応したハルが機体を反転させた。
中国軍WW【鉄兵】の放った迫撃砲がすぐ後ろをかすめる。
【ミカエル】の【光子圧縮砲】による被害で攻勢を一時弱めていた中国軍だったが、再び勢いを盛り返し始めている。
元々数に劣る米軍に、この虚を衝く能力は残っていなかったのだ。
「ハル、大丈夫。もう一回使おう?」
後部座席のアキが心配そうにハルを見ている。
「だけど、アキが…」
「あれはハルのせいじゃないの。アポロと戦ったから……」
「変わらないよ。戦争には」
まだ、ハルには自分や【色】の事を話していない。
うまく言えないが、今は駄目だと思う。
「ハルと一緒ならやれるよ。間違いない」
「……わかった、頼む」
後部座席のアキが後ろからそっとハルの肩に触れる。
柔らかい指先の感触がパイロットスーツ越しに心臓まで届く。
アキが身を乗り出してハルの肩を抱く。
心臓が高鳴ったのはバレたろうか。
「集中して。今、世界にいるのは私達だけよ」
「あ、ああ」
どうも慣れない感覚だ。
女に後ろから寄り掛かられているとは言え、戦いの最中に、あらぬ感応を覚えている自分は相当の助平なのだろう。
それだけ、耳元に感じるアキの吐息が官能的であるという事だが、アキにそれが伝わるのは恥ずかしい事だ。
「……ぅ……」
小さくアキが呻く。
やはり、この行為はアキに少なからず負担をかけているのだ。
ハルは出来るだけ雑念を捨てようとした。
なぜ?
わからないが、そうした方がいいような気がした。
「……は…」
再びアキが息を洩らした時、ハルはひんやりとした心地良い水が身体に流れ込むような感覚を感じた。
恐怖や殺意に溢れていたはずの心はどこまでも透き通る水に満たされ、身体が風のように軽くなる。
ヘルメットのバイザーには【蒼】く輝く自分の瞳が反射している。
いけるぞ。
ハルは自分を【ミカエル】に吹き込むイメージをした。
ミカエルに蒼い【プロミネンス】の翼が生えたのはその時だ。
全高10メートルの機体に不釣り合いな50メートルは超えようという蒼い光でできた翼。
中国軍に明らかな動揺が走ったのが上空からでもわかる。
再度、撤退を始める中国軍をミカエルは【断罪】した。