―雨は嫌い…っ―\n
小降りではあるが,
糸のような雨がサーサーと
降っていたのが,部屋の
窓から見えた。
―朝から雨か…ぁ―\n
雨の日は,特に何もいいコトが
ないような気がする。
…いつもないんだけど。
「未琴ーっ」
母の声が聞こえた。
「なにーっ?」
とりあえず元気を装って
返事をした。
「そろそろご飯ー」
あ,そうだ。もうそんな
時間だったか。
「うんっ。今行くーっ」
私は階段をドタドタと降り
キッチンへ入った。
「未琴,早くしなさいっ」
「ごめんっ,今やる」
そういって私は手を洗う。
「そっちも一応洗ってよ」
母は私の右手を指差した。
「あ,うん。そうだね」
私は右手を慎重に洗った。
「そっちの手はしっかり洗ってね?そんな手で
作った料理なんて
食べたくないからねぇ」
―確かにそうかもね…―\n私は母に微笑んだ。
…私には,右手がない。
手首から上がないのだ。
私は出産予定日よりも\nとても早く生まれて
しまったらしく,体がまだ
完全に出来あがってない
状態になってしまったのだ。
そのせいで,はいはいも
歩くのも人より遅く,
小学校の時の足し算は
解くのが一番遅かった。
私は「知能遅れ」だとか
手がないため「妖怪」とか
いうあだ名をつけられた。
でも,だからといって,
介護だとか養護だとか
そんなことはされたく
なかった。
―みんなと同じがいい―\nそう母に打ち明けた日が
あった。すると母は,
「じゃ,みんなと同じに
生かしてあげようか」
とだけいった。
母は気の強い人だ。
高校では夜遊びが激しく
薬物などに手を出した。
私のこの体は,その薬物の
影響かもしれないと
医師にも言われたそうだ。
そんなことがあって,
私は今料理を覚えている。
母が先生だ。