白い家 1

ゆうこ  2008-08-24投稿
閲覧数[877] 良い投票[0] 悪い投票[0]

その家は空き家だった。
私がもの心ついた時からずっと。

瀟洒(しょうしゃ)な白い一戸建てのその家は、外観こそ少女の憧れである洋館といえたのだが、私は小学校の帰り道、前を通りかかる度に足早になる自分に気付いていた

寂れた、カーヴを描く優雅な門…その鉄柵からはみ出る湧き出たような雑草の奥に、家はあった。
広めの庭の奥…雑草の向こうに、白い壁の家。
窓は廃墟だというのに割れていない。
しん、とした佇まいに悪戯心を持った子供たちが恐る恐る呼び鈴に手を延ばす。
私はそういう一団を見るにつけ、はっと息を呑み…走り去った。
まるでその先の出来事を恐れるように。
もちろんあの子たちに何かあるはずはない…。
きっと呼び鈴は壊れていて音もならないのだろう…きっと、それだけのことなのだ。

時に、私はあの頃、両親の離婚によって深く傷ついていた。
結局、母親についていったものの、それまで仕事とは縁のなかった母親の仕事によるストレスを私は一手に引き受ける事となった。
なにかにつけて荒を探され、上手く対処できなければ罵倒された。
そのあと極端に優しくされる…その繰り返し。

日常に疲れるのは大人ばかりではない。
ほんの少女だった、あの頃の私は大人顔負けに疲れ切っていた。
そんな転校生に友達など出来るはずもなく、虐められる事もない変わりに空気のような存在感で、私は漂っていた。

そんな私の唯一の慰めは縫いぐるみの「ネム」だった。タオル地で出来たネムはまだ私達が家族だった頃、母と父と私が協力して作り上げた猫だった。
母が布を切り、私が重りのビー玉を四本の足に入れ、父がぎこちない手つきで縫ってくれた。
前の学校の行事だったのだ。目が眠そうに垂れていたのでネムになった。私は小学三年生の女の子が大概そうするように、不幸を噛み締めつつ、悲劇のヒロインを気取っていつもネムを抱いていた…まるでそうする事で母親を責めているように。
ネムは本当に私の一部だった。学校に行く時もひっそりと鞄に忍ばせていたし、寝る時などはないと一騒動になる程だった
私が母ならその状態を不安に感じたろうが、母親は自分の事で手一杯で私を気遣う余裕はない。

そう。

それがあの頃の私だった



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 ゆうこ 」さんの小説

もっと見る

ホラーの新着小説

もっと見る

[PR]
関東近辺のお葬式
至急対応も可能!!


▲ページトップ