「……なに?」
喧騒に包まれるあおかぜの艦橋で戦闘オペレーターの美樹がポツリと呟いたのを滝川艦長は聞き逃さなかった。
「どうしたの、美樹」
「いや、あの、レーダーの故障だと思うんですが…」
「?」
「これ…“艦”ですか?」
美樹が正面の大画面に映し出したレーダーを見て、一同は絶句した。
巨大。
北西に5キロ、戦場の規模を考えると目と鼻の先に現れた巨大な影。
それは現在のアメリカ軍の実質トップ、エヴァンス中将の乗艦グレイプニルや、半年前のロサンゼルス攻防戦で撃沈された“要塞”の異名をとった航空母艦プレーリーの比ではない。
滝川は艦橋の窓に走り寄り、北西を見た。
まさに島。
空飛ぶ島だ。
5キロしか離れぬ空に島が浮かんでいるのだ。
何故今まで気が付かなかったの?まさかステルス機能を有している?
「機体識別出来ました!!」
通信兵の一人が画面を叩いた。
「【神聖ロシア帝国】の戦艦と判明!」
「ロシアですって!?」
滝川は耳を疑った。
神聖ロシア帝国は国連にも月にも中立の立場をとっていたはずだ。
まさか、アメリカの危機に乗じて一気に葬ろうというのか。
中世の時代、アメリカと、ロシア帝国の前身であるロシア連邦は【冷たい戦争】なる戦争を繰り広げ、地上に覇を唱えんと互いの武を競った。と歴史の教科書で習ったのを覚えている。
その戦争は【カク】という兵器の保有数が決め手となったと聞くが……
まさか、その決着をつけようと言うのか。
だとすれば勝ち目は無い。
“島”はワシントンの上空をすれすれで飛び、巨大な影を落とした。
近くに来るとその大きさは計り知れなかった。
艦尾が見えない。
宣戦布告も何も受けていない、完全に奇襲。
いや、勝てば官軍。罷り通るというのか。
そして、そこで初めて意外な事に気付く。
動揺しているのは我が軍だけではない?
中国も、その圧倒的な存在感に気圧され、たじろいでいる。武器を向けているWWの姿もあった。
両軍共に第三勢力の到来に開いた口が塞がらないのだった。
そして、戦場とは思えない静寂の中、一機のロシア製の細身のWWが現れ、上空100メートルの辺りで停止した。
それは静かに語り始めた。
<我々は神聖ロシア帝国近衛騎士団である>
凛とした口調だが、かなり年若い印象を受けた。