私の背丈ほどもある雑草を掻き分けながら、ネムを捜す。
茅(かや)で手を切り、ピリピリと痛む。心臓は激しく血液を押し出しているかのよう…緊張で吐き気さえ感じる。
それでもネムを諦められなかった。
あれがなくなれば…私の存在意義が消えてなくなるとでもいうように。
ない…ない…ない!
これだけ探して、ないということがあるだろうか
私は汗だくになって、屈んだ腰を伸ばし…そしてぎょっとした。
目の前に、赤いドアがあったのだ。
這いつくばって捜すうちに、こんなところまで来たというのか?
私は思わず後ずさっていたが…その時、ドアが細く開き、隙間から一瞬、ネムが見えた気がした。
ネム?
なぜ…まさか…。
私はその刹那のみ、恐怖を越えて行動していた。
細く開いたドアの隙間に手をかけ、大きく足を踏み出していたのだ。
扉は背後で閉まり、私は騙されたことに気付いた
餌につられた雀が籠に閉じ込められた時のように
笑顔の大人に体を触られた時のように。
すうっと足から力が抜け出し、奈落の底に吸い込まれていく。
私は試す前から気付いていた。
私はもう…出られない。
それでも半狂乱になってドアを叩き、引っ張り、押す。
薄暗い、かび臭い玄関で私はあらん限りの力で叫び、泣き、手を腫らしていた。
暫くそうしていて…私のなかのパニックの波が、ようやく静まっていき、泣き濡れた目を擦った。
広い玄関に靴が二足並んでいる。
一つは小さな女の子のもので、真っ赤な花のついたかわいらしい靴。
もう一つは、大人の女性の靴…血のように赤いピカピカのハイヒールだった。
私が産まれる前からある廃墟に、どうみても新しい二足の靴がある。
見渡してみても、埃臭さはあるものの、余りにも綺麗だった。
テレビの肝試しなんかでみるような、汚らしいゴミや落書き等は一切なかった。
誰か住んでいる?
そんな筈はない…。
いや、でも…。
確信が持てずに、私は玄関で靴を脱いだ。
そうすることが正しい気がしたのだ。
ゆっくり、私は家の内部へと進んで行った。