未伊子さんがそんな口調(標準語)で挨拶する時は、たいがい妙なコトにこだわっているときだと会社の人たちも知っていた。普段はコテコテな九州弁なのだから…。
以前の質問はなんであっただろう?
そうそう、「野球の背番号について〜!」だったよな。
「いろはにほへと…の次につながる言葉は?」っていうのもあった、あった。
「ラグビーは何故スクラムを組むの?」っていう簡単そうで専門的知識がいるようなコトも聞かれて、答えられなかった〜。
それぞれに、ニヤリとしながらヒマな人は未伊子さんの質問を聞いてみる。
「おはよー、今日はなんかね?」
製造課の溶接班、椎名さん(52歳・妻子持ち)が尋ねた。
未伊子さんはニコニコしながら、
「ホストのアフター?ってなんですか、知ってマスか?」
「ほ、ホスト?」
「そうそう、イケメンやらお笑いのヒロシがやってるホスト、です」
「この辺にはそんなヤツはおらんよ〜おじさんは知らん!未伊子さんは時々、スゴいことを聞くなぁ、すまん他をあたってくれんかぁ」
頭をかきながら、椎名さんは足早にその場を去っていく。
未伊子さんは思った。
(ホストのいるトコに行くのは女子やけん、女子に聞かんといかんよな〜。昼休みまでガマンするかな?この質問は…)
この会社は女子に朝から会うのは、タイミングが必要ナノだ。未伊子さんのように現場に出て働いているのは稀である。事務所に経理などをしてるのが主で。
(仕方ナィ、昼休みに聞いてみよう!)
そう未伊子さんが諦めかけた時に、加藤 創があいさつをしてきた。まだリフトには乗っていない。(当たり前、ふふふ)
「おはよ〜こざいーっす。未伊子さん、昨日は大変やったやった、っすね!」
(お〜遊び人の創がおったやん、ヤツなら知っとるやろ〜)
創は自分を見ていつになく、ニコニコ顔の未伊子さんの態度に驚いていた。
「創さんおはようございます!今、時間ありますか?ちょっと分からないコトがありまして…
あ、昨日のお金借りてた分返すね!」
未伊子さんはカバンの中を探ると、煙草の箱を創に渡した。
その箱には、300円をセロテープで丁寧に張りつけてあった。
それは創の愛用のタバコ、である。
《ー続くー》