小林は、鞄から手帳を取り出しながら続けた。
「これは害者の物ですが、今日、貴方と会う予定になってますね。何の用件なのか、聞かせて貰えませんか。」
裕二は、驚いた。午後からくる予定の依頼人だったのだ。
「14時からの約束でした。でも、用件までは知りません。来てから話すとの事でしたので。ですから、名前も知らないのです。」
「森下ゆき、遺留品からの推測では、間違い無いでしょう。」
裕二の背中に、電流が走った。〔ゆき〕という名前に反応したのだ。今朝の、あの奇妙な電話は、被害者からのものだったのか。という事は、事件は、あの時起きたのだろうか。
「どうかしましたか?」
小林が、不審そうに聞いた。
「何でもありません。他に、質問はありませんか? 何でもお答えしますよ。」
裕二は、電話の事をあえて話さず、探りを入れた。
「では、最初の質問の答えを頂きたいのですが」
「その時間でしたら、自宅で寝てました。それだけです。」
「分かりました、
有り難うございます。」
そう言って、小林は立ち上がった。しかし、その顔には、満足な表情を浮かべていた。