私は[鹿又未琴(カノマタミコト)]。
県立S高校の一年で,
部活は何もやっていない。
ただの平凡な女子高生。
…と言いたいところだが,
前回も話したように,私には
…右手がない。
「あ〜,やっぱいいや。
あたしがやるから,ね。
ご飯遅れちゃうから」
母は私からすっと包丁を
とりあげて,残りのニンジンを
手早くいちょう切りにした。
[…スト・スト・スト・スト・スト…]
母のスムーズな包丁さばきに
しばし見とれていた。
「ごめんね。結局
手伝わせちゃって」
無理に笑って言った。
「いいよ。どうせ未琴には
できないだろうから」
ちょっと胸がチクリとした。
それから,もう一度小声で
「ごめん」と言い,キッチンを
あとにした。
夕飯は,クリームシチューだった。