玄関を抜けると、暗さが一層増した気がする。
私は鳴り響く心臓を押さえ、飛び出さないようにする為に指を口唇に充てていた。
これ以上入りたくない。が、出口を見つけなくては…。
すぐ目の前に階段がある上からは僅かな冷気が流れてくるようで、私はのぞきこみ…息を呑んだ。
1番上の段に、細い足が…。
誰…?
か細い声に弾かれるように、足は消えた。
もの音一つ立てず…しばらくしてバタン、と扉の閉まる音。
女の子だ。
あの靴の持ち主…。
私は夢中で駆け上がった本当に人が住んでいるのなら、私を出してくれるかもしれない…。
二階に上がると、すぐに一つの扉が目を惹いた。
それにはプレートが掛かっていた…「ゆり」
恐る恐る、ドアを叩こうとしたとき、一階から声がした。
どこ?
ゆりちゃん…どこ?
出てらっしゃい…
女性の声?
どうしよう?
歌うように呼ぶ女の声は近づき、微かに階段の軋む音が聞こえた。
いるんでしょ…?
わかってるわ…
いっそ出ていって謝ってしまおう!
私が扉から離れようとした、その時、にゅっと青白い腕がドアから突き出し…私はあっという間に真っ暗な部屋に引き込まれていた。
悲鳴を上げかけた口を、しっかりと手が押さえ込んでいる。
静かにして
私の耳に少女は囁き、私はズルズルと引っ張られた。そして壁に押し付けられる。
ここから絶対に動かないで。
でないと…喰われる
そう呟いて、少女は自らの氷のように冷たい身体を私にピタリと密着させた。
ギシ…ギシ…ギシ…
どこなの…ゆりぃ…ゆり…ママを困らせないで…
ギシ…ギシ…ギシ…
来る。
声が近づくにつれ、少女の身体が硬く、震えを増していく。
ゆり…ママを怒らせないで…ね、ゆりちゃん…
その声は背筋をそっとナイフで撫でられたように感じさせる、狂気を孕んだ声…。
叫んでいる訳ではない。むしろ優しいと言えるその響きは、ねっとりと身体中を這い回る。
私はぎゅっと目を閉じ、現実を遮断する努力をした。
声はもうすぐ側まで来ている…。