李遼は携帯を持っていないから、裏サイトの書き込みは読んでないと思うけど、あの文面を思い出すと怒りで体が震えてくる。でも、あんなものより今の時間の方がずっと大切だった。
「鈴木は、優しいな。」
息苦しくなる。
「あの時、オレ、びっく
りした。鈴木がいきなり
靴下脱げって言った時。
」
顔から火が出そうだ。李遼の顔が見られない。
「なんか、そんな事気に
してる奴がいるんだって
思ってさ。」
うつむくわたしの視線の先には、李遼の足元。今はスニーカーだってはいているのに、何故か胸が痛い。
「何で、あんた、上履き
・・・」
言いかけて声がつまった。涙が込み上げてくる。
嫌だ。もう涙なんて見られるのは。それなのに、
何で。
「何で泣くの?オレは平
気だよ。」
李遼は慌てて自分のポケットを探ったけど、何もないとわかって、不意にわたしの頬を両手で挟んだ。
李遼の指が、わたしの涙を拭う。何度も何度も。
「心配しなくていいよ。
オレの事は。」
「心配なんてしてないよ
!」
怒ったように李遼の手を払いのけて、自分のハンドタオルで涙を拭いた。
李遼は、そんなわたしを見て笑った。
「オレさ、カンフーやっ
てたから多分ケンカした
ら、負けないんじゃない
かな、多分だけど。」
急に何言い出すんだろう。
「カンフーって、あれ?
ジャッキー・チェンとか
?」
「そうそう、笑拳とか、
酔拳とかああいうの。」
「嘘ばっかり。」
「嘘じゃないって。」
そう言うと李遼は、立ち上がって両手を互い違いに円を描くように回し、片足を上げた。それから、片腕をつきだして素早く蹴り上げたかと思うと、大きく足を開いてポーズを決めた。
それが、正しいかどうかなんてわからない。だけど、それがおかしくて、わたしは吹き出した。
キヨが見ていたのか、駆けつけて、
「僕もやる!お兄ちゃん
もう一回やって!」
と言った。
「一子相伝だからな、キ
ヨにしか教えないぞ。」
一子相伝なんて分かるわけないのに、キヨは真剣に頷いている。
李遼は奇声を上げて飛び回る。キヨは必死で真似をする。わたしは、笑い転げていた。
李遼と別れた後、わたしはキヨとジャッキー・チェンのDVDをレンタルして帰った。
ジャッキー・チェンが少し、好きになった。