飛行機雲?

 2008-08-29投稿
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「なあに、それ。借りて
来たの?」
仕事から帰って来た母が、キヨと一緒にDVDを見ていたわたしに言った。
「うん、まあね。」
キヨはジャッキーの技を会得しようと頑張っている。
「そんなの見て、キヨが
お友達にケガさせたりし
ないかしら?」
買い物袋をテーブルに置きながら、母は心配そうにキヨを見た。
「大丈夫だよ。キヨは正
義の味方だから、悪い奴
としか戦わないんだよね
、キヨ?」
わたしはキヨを膝に抱き上げた。
「うんっ!」
元気に返事をして、キヨは再び、戦場に戻って行った。
「もう、女の子なのに、
色気も何もあったものじ
ゃないわね。」
買って来たものを冷蔵庫に収めながら母は呆れていたが、不意に、
「ねえ、ハル。」と言った。
「キヨがね、最近お兄ちゃんお兄ちゃんっていうんだけど、誰の事?」
わたしはドキリとしたけど、平静を装った。
「保育士の堀田さんかと
思ってたら、どうも違う
みたいだし。」
母はこういう事には鋭い。
「友達だよ。保育園の近
くに住んでて、子供好き
なんだ。キヨと、よく遊
んでくれる。」
「ハルの友達?男の子な
の?」
「うん、同級生。」
母は、明らかに疑っている。
「それって、キヨをダシ
に使ってハルに近づこう
としてるんじゃないの?
「違うよ、そんなんじゃ
ないって。」
わたしが、出来るだけあっさり言ったので、母はそれ以上問い詰めなかった。嘘じゃない。でも、
あまり色々聞かれたくなかった。聞かれて答えるうちに、自分の心を裸にされていくような気がするから。

長い梅雨が明けた。
受験生には、楽しい夏休みなんてないらしい。
期末テストが近づいていて、わたしも、ひとつでも順位を上げなくちゃいけない。
短縮授業になっても、学校の図書室で勉強してからキヨを迎えに行く。
夕方でも太陽の日射しは衰えない。
けれど、毎年うんざりしていた暑さが気にならない。李遼が待っているから。わたしの姿をみとめると、李遼が大きく手を振る。わたしも手を振る。キヨが走り出し、追いかけるようにわたしも駆け出す。見馴れた光景。
李遼の笑顔は弾けるように眩しくて、向かって行くわたしはイカロスの気分だった。

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