RPG−2

たる  2008-08-30投稿
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「え・・・うわ・・・」
絵に書いたような青ーい空。
ふわんと浮かぶやわらかそうな雲。
CG世界みたいな全部草原という景色。
感動しないわけないが、何より頭の中を占めるのは驚きと狼狽だ。そりゃそうだ。私の頭がまだ正常だというなら、さっきまで−−というのは眠りにつく前だ−−私がいたのは初めて行ってから12年間ずっと通っている病院の待合室だったはず。10分もすれば名前が呼ばれて診察室に通されていたはず。それがどうして・・・。百歩譲って私は体だけでなく頭もおかしくなっていて病院からふらりと抜け出したとしよう。
で、どうしてここなんだ。むしろどうやって来たんだ。過程がすっぽり抜けているあたり、夢遊病的な勢いで来てしまったのか。いやいやいや。もはや半笑いだ。だってどう見たって県外だし、家から病院、たまに学校という以外のルートを行かない私がどうやって・・・。
はっとして横を向いた。私を呼んでいた人。黒い短髪の女の子がいた。ベリーショートがよく似合った17,8くらいの同い年くらいの女の子だ。全身を覆う銀の鎧−−動く度にがちゃがちゃいうから金属なのは間違いない−−はゲームに出てくる勇者そのものだし、私と同じ目線になって座っている女の子のそばには銀色の大きな刀が刺さっている。ますます勇者様だ。それがこの女の子の物だろうと予想はつくが、女の子がそんな格好をしているわけも、自分と一緒にいるわけもまったく見当がつかない。
このまま過呼吸になって喘息症状も現れて呼吸困難で死んだらどうしようと冗談でもなく思ったが、その兆候はなにも起こらない。とりあえず私の体はこの状況に堪えられているようだ。今にもパンクしそうな頭は別として。

「お前、頭でも打ったのか?」
黙ったままきょろきょろしたり考え込んだり忙しい私に女の子が言った。女の子の表情から、どうやら嫌味でも皮肉でもないらしい。心配してくれてるようだ。何がなんだか分からないが、味方になってくれそうだ。私はありがとうと言葉を返してゆっくり立ち上がった。
この後、私は彼女と最初に会った幸運を生涯感謝することになる。




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