「…これは…何?」
ニット帽はゆっくりと視線をレインコートに移す。
「キミは誘拐でもしたのかい」
「…まさか」
レインコートが首をかしげた。全く心当たりがない。
急に起こすのは可哀想だと思ってそのまま寝かせておくことにした。
「誘拐にしてはかなり無防備だし、明日になれば帰っちゃうでしょ」
金髪はそう言って割り箸を割った。
レインコートも弁当を取ってボンネットの上で胡座をかいた。ご飯が冷たかった。
「それにしても綺麗な子だったね」彼女はちょっとうっとりした。「きっといいとこの子だよ。育ちがいいのが滲みでてる」
自信有り気にニット帽が言った。
夜が更ける。
廃車置き場を離れる時にレインコートはもう一度だけちらっと窓に目をやった。
籠の中の小鳥は静かに眠っていた。
廃れた路地は静閑としている。昔商店街だった場所にも今は野宿する者が見られる。
カナイ市は県内でも特に都会的な街である。
メライ地区と呼ばれるこの場所はカナイ市にある。しかしながら、都会的なイメージとは打って変わって、メライ地区は治安が悪く、退廃的である。暴動やデモなどはしょっちゅう起こるるような街である。