突風が吹いた。
いや、ただの突風と言って良いものではないようだ。
スカートがめくれるとか、砂埃が目に入ったとか、
そういうものではなく。
一つの町が、一瞬にして吹き飛んだのだ。
綺麗な町だと思った。
赤や黄色のきのこ型の家々、
ほどよい活気のある商店街、
皆にこやかで、礼儀正しそうな住人たち。
それらが、家も商店街も住人たちも‥
その一瞬で、全てが吹き飛んだ。
今そこにあるものは、見渡す限りの黒い土。
他には何もない、ただ、黒い土だけだ。
そんな光景が、わたしの眼下に広がっている。
そう、眼下に。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ぁ」
やっと気がついた。
なんということだろう。
わたしは宙に、浮いている。
しかも、身一つで、だ。
「‥‥‥‥‥!!」
―って!落ちるっ‥!
私は咄嗟に目を閉じた。
身体がびくんっとなって目が覚めた。
「‥‥‥‥‥‥あー」
夢だ。悪い夢。
しばらくぼーっとベッドに横になっていたが、ふと寝返りをうって時計を見る。
6時ジャスト。
いつも通り、夜にきちんと寝たのだから6時というのは午前のことだろう。
「えーと‥何日だっけ‥」
寝起きの思考が正常に働いているなら、9月1日。
普通の高校2年生の、2学期初日だ。
「起き‥起きぃ‥」
寝起きは苦手だが起きることにする。
よたよたと1階に降りたところで、異変に気付く。
静かすぎる‥。
ああ、今日は早く起きたから、両親も姉もまだ寝ているんだろうと、ぼーっと考えた。
しばらくただ座っていたが、誰も起きてくる気配はない。
少し考え、わたしはもう一度2階へ上った。
両親がいるはずの部屋のドアをそっと開ける。
まだ起きていないのならここにいるはずだ。
そっと覗くと、ベッドの布団は畳まれカーテンは開いている。
朝の陽射しで少し暑そうなくらいだ。
「いない‥」
わたしは額に汗を浮かべながら、すぐに姉の部屋の扉を開けた。
2階には誰もいなかった。
「なん‥で?」
出掛ける用事など聞いていない。
わたしは弾かれたように1階へ駆け降りた。
狭いリビングを走り抜けその奥の和室の扉を乱暴に開ける。
狂ったのは、わたしか。
いや、世界の方だろう。
和室の真ん中に背を向け、
猫だか犬だか熊だかが混ざったような、一匹の獣が‥
お茶を啜っていた。