モモザト[1]

せんいろ  2008-09-01投稿
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突風が吹いた。

いや、ただの突風と言って良いものではないようだ。

スカートがめくれるとか、砂埃が目に入ったとか、
そういうものではなく。



一つの町が、一瞬にして吹き飛んだのだ。



綺麗な町だと思った。
赤や黄色のきのこ型の家々、
ほどよい活気のある商店街、
皆にこやかで、礼儀正しそうな住人たち。

それらが、家も商店街も住人たちも‥
その一瞬で、全てが吹き飛んだ。



今そこにあるものは、見渡す限りの黒い土。
他には何もない、ただ、黒い土だけだ。

そんな光景が、わたしの眼下に広がっている。

そう、眼下に。

「‥‥‥‥‥‥‥‥ぁ」

やっと気がついた。
なんということだろう。

わたしは宙に、浮いている。
しかも、身一つで、だ。

「‥‥‥‥‥!!」

―って!落ちるっ‥!

私は咄嗟に目を閉じた。









身体がびくんっとなって目が覚めた。

「‥‥‥‥‥‥あー」

夢だ。悪い夢。

しばらくぼーっとベッドに横になっていたが、ふと寝返りをうって時計を見る。

6時ジャスト。

いつも通り、夜にきちんと寝たのだから6時というのは午前のことだろう。

「えーと‥何日だっけ‥」

寝起きの思考が正常に働いているなら、9月1日。

普通の高校2年生の、2学期初日だ。

「起き‥起きぃ‥」

寝起きは苦手だが起きることにする。

よたよたと1階に降りたところで、異変に気付く。

静かすぎる‥。

ああ、今日は早く起きたから、両親も姉もまだ寝ているんだろうと、ぼーっと考えた。

しばらくただ座っていたが、誰も起きてくる気配はない。

少し考え、わたしはもう一度2階へ上った。


両親がいるはずの部屋のドアをそっと開ける。
まだ起きていないのならここにいるはずだ。

そっと覗くと、ベッドの布団は畳まれカーテンは開いている。
朝の陽射しで少し暑そうなくらいだ。

「いない‥」

わたしは額に汗を浮かべながら、すぐに姉の部屋の扉を開けた。


2階には誰もいなかった。


「なん‥で?」

出掛ける用事など聞いていない。



わたしは弾かれたように1階へ駆け降りた。

狭いリビングを走り抜けその奥の和室の扉を乱暴に開ける。





狂ったのは、わたしか。

いや、世界の方だろう。




和室の真ん中に背を向け、
猫だか犬だか熊だかが混ざったような、一匹の獣が‥



お茶を啜っていた。




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