『北岡。何故、お前はそんなに問題ばかり起こすんだ?!』
再び、こちらに向き直った渋川が聖人に言った。
聖人は、つい今までタツヤに向けていた鋭い眼光を、今度は渋川へ向けていた。
クラスメイト達は皆、事の一部始終を見ていたクセに、
まるで、何事も無かったかの様に、シラケていた。
誰も、聖人のコトを庇う者はいなかった。
酷い――
酷いよ‥みんな――
ずっと――
さっきから見ていたクセに――
あたしは、勇気を振り絞って渋川に言った。
『先生。悪いのは聖人じゃありません。先に手を出したのは、タツヤなんです。』
勇気を振り絞って言ったのに――
『ほほぅ。木下。お前も随分と色々な問題に関わる様になったじゃないか。
私の忠告を無視して北岡と付き合う、お前の気が知れないよ。
悪いが、北岡と付き合っている以上、お前の言う事を素直に信じる訳にはいかないね。
来年は受験だ。1年なんて、あっという間だぞ。
その時になって、内申点に響いた事を後悔し、嘆いても遅いのだからな。
よく考えて行動しろよ。』
渋川は、あたしにそう言うと、
ニヤッとニヒルに含み笑いをし、
今度は聖人に向かってこう言った。
『北岡。お前より先に手を出したのがタツヤで、お前が、あくまでも正当防衛だと主張するのであれば、それを証明してくれる人間は、此処にいるのか?!』
フフンッと鼻で笑いながら渋川は、
ずり落ち掛けた銀縁メガネを指で直した。
聖人は黙っていた。
さっきから渋川を睨み付けているだけで、
何も言い返さなかった。
『な‥なんでっっ‥‥。みんな見てたよ‥ね?!見てたじゃんっっ!!』
あたしは、クラスメイト達をぐるりと見回した。
みんな――
あたしと目を合わせない――
教室中は静まり返ったまま――
『ま‥やはり私の思ったとおりと言う事だな。ケガの具合を見てから、タツヤからも事情を聞く事にする。
北岡。義務教育で良かったな。
お前の父親にもこの事は連絡しておく。』