『ま‥やはり私の思ったとおりと言う事だな。ケガの具合を見てから、タツヤからも事情を聞く事にする。
北岡。義務教育で良かったな。
お前の父親にもこの事は連絡しておく。』
渋川が教室から出て行こうとすると、
さっきからずっと黙っていた聖人がこう叫んだ。
『おい!!親父は関係ねぇだろ?!
俺1人の処分でいいじゃねぇか!!』
聖人の言葉に渋川は足を止め、こちらを振り返った。
『何言ってんだ!!このガキが!!
お前1人の処分だけで、タツヤの御両親が納得するとでも思っているのか?!
しかも義務教育である以上、退学にする事は出来ないしな。』
渋川は最近様子がおかしい。
そう思っているのは、多分あたしだけじゃない。
“事勿れ主義”の“サラリーマン教師”だと言われていた渋川が、
何故か近頃、“熱血教師”ぶりを披露しているんだ。
あたしは、黙ってられなかった。
でも、渋川にあんな言い方されたら、
何も言い返さなくなってしまった。
でも――
黙ってられなかった。
黙って言われっ放しでいる事は出来なかった。
『先生!!前にも同じ様な事があったんです!!
その時は、結果的に大ごとにはならなかったから、先生は知らないとは思いますけど、
タツヤがサバイバルナイフで、いきなり聖人に切りかかろうとした事があったんです!!』
渋川は、あたしの言葉に一瞬目をまん丸くさせ――
そして、笑った。
高々と甲高い声で、あざ笑ったんだ。
『ハハハハハ。木下。馬鹿言っちゃ困るよ。
自分の彼氏が追い詰められてるのを、黙って見ていられないお前の気持ちも分からなくはないが、嘘はやめなさい。
そんな陳腐な作り話で私を騙す事が出来るとでも思っているのか?!』
『嘘じゃありません!!本当です!!
その時も‥‥その時も聖人がタツヤを制止しなかったら‥‥刺されていたかも知れないんですよ!!
先生!!嘘じゃありません!!』
大きい声で叫んだから――
声がかすれて、旨く話せなかった――