PM9:00 新宿
親友と久々に食事をすることになった。林田涼、中高生の6年、クラスも部活も一緒でとても気の合う奴だ。お互いに時間があうことが少なかったから、今回は2カ月ぶり。
「何、お前マジで仕事辞めたの!?」
「うん、昨日ね。」
「はぁ〜…で?どうしたいわけ?これから」
「うん………。」
「?」
黙り込む僕をみて、涼は一口お酒を飲んだ。
「6年も続けた仕事辞めるなんて、よっぽどのことだろ?何か悩んでんなら−…」
「いや、そうじゃないんだ。涼、僕さ、NYに行こうと思ってる。」
突然のことに涼の目は丸くなった。
「ずっと言わなくてゴメン。自分の中でちゃんと決めるまでは話せないと思ってて…」
「そっか…いや、驚いたけど。なんでまたNYなんだ?」
「涼さ、高2の時の美術の先生覚えてる?」
その言葉に涼の顔はハッとした。
「中谷先生だよな?覚えてるよ。ちょっとかわってたけど、いい先生だった。ひろ、スゲェ気に入ってたよなぁ。でもすぐに自分のアーティスト活動のために海外に行っちゃったんだよな。」
僕と涼は高校時代美術部だった。『純粋に美術が好きで』と言うわけではなく、厳しく強制的な運動部から逃れるためだった。だから1年の頃の部活参加は数えるほどしかない。
でも2年の時、中谷先生と出会ってから、僕の中の全てがかわっていった。
考え方、感じ方、信じてきたもの、疑ってきたもの。話す度に、見えなかったもの、モヤのかかったものが鮮明になる様に心が澄んでいった。
「逢いたくてしょうがないんだ。7年経った今でも。何してても思い出すし、この気持ちが何なのか知りたいんだ。今はただ先生の傍にいたい。僕を変えてくれた先生のいる世界を感じたい。」