女の声が迫る…。
奥の部屋から順々に扉を開けていく音がする。
ゆり…やっぱりここね?
そっとノブが回された。開いた扉が私達を隠している。
しばらくガサガサと何かをどけたり開いたりする音が続いていたが、すぐに収まり、いらただしげな呻き声をあげて女は部屋を出ていった。
勢いよく階段を駆け降りている。
私を押さえつけていた少女の緊張がようやく緩み私自身もその場にへたりこんでしまった。
「ありがとう…」
なにがなんだか解らないが、彼女が助けてくれたことだけは解った。
暗闇に慣れた目で彼女を見た…が危うく悲鳴をあげそうになる。
彼女の顔は、ひどく醜かった。
いや、元々は普通なのだろう…が、縦横無尽に走る傷あとが、彼女の顔を引き攣らせ、歪ませていた。悪夢に出て来る魔物のような、凄まじい容姿だった。
私の内心の衝撃を感じたのか、彼女はサッと顔を背ける。
私は気まずくなってしまったが、正直、安堵してしまった。
正視する勇気がなかったから。
「あなた、何でここに来たの?」
少女は潰れたような声で聞いた。
私はネムの事を簡潔に話した。そして出口を探している事も。
「出口…?」
噛み締めるように呟く少女の、握り合わせていた指が解かれた。
「ここから、出られるの…?」
?
何を言っているんだろ?
「窓から出られるでしょう?例え玄関が閉まっていても」
私の期待に満ちた声に少女はざんばらの髪を振る
「…無理。喰われるよ。あいつに」
あいつ…あの女性の事?
「喰うって…そんな」
少女は下を向いたまま、首を振った。
「逃げたいなら、あいつを殺さなきゃ。でないと逃げられないよ」
「殺す?そんな…」
少女のカサブタだらけの手が、私の手をぐっと掴んだ。
「一人なら無理でも、二人なら出来るよ。あいつはあなたがいることは知らないんだから。お願い…私も逃げたい」
必死な声。
私はとにかく帰りたかった。
ここから出られるなら何でもする。
私は、頷いた自分を、どこか違う場所から見下ろしているような、奇妙な感覚を味わっていた…。