<なんだ、女が一緒なのか?>
興醒めしたような声がコクピットに響き、【ミカエル】に絡み付いていたロシアWWの腕がパッと離れた。
「こんな!破廉恥な事!」
アキは後部座席の為、顔は窺い知れないが、かなりの剣幕なのはわかる。
「アキ、落ち着け!」
慌てて制したが、アキは収まらない。
「ハルもデレデレしないで!ロシアの騎士様よ!」
噛み付かれそうな勢いで首を掴まれ、一瞬息が詰まる。
<そうね。単独で【プロミネンス】を発動するには、思春期の子供は煩悩が多すぎるわ>
スピーカーの向こうで一人、納得したように唸ったエカチェリナはゆっくりと【ミカエル】から離れていく。
<ゴミ掃除が終わったら、また会いましょう>
そう言い残すと、彼女のWWは地面に刺さった大槍を引き抜き、脇に抱えて再び空に舞い上がった。
そしてこちらを振り返った。
<さっきも名乗ったけど、私は神聖ロシア帝国近衛騎士団団長エカチェリナ・テファロフ辺境伯>
さらに、彼女は誇らしげに続けた。
<そしてこの娘は、親愛なるウラジミール皇帝陛下からいただいたロシア最高峰の機体、【イヴァン】よ。……もし、戦うような事があったら可愛がってちょうだい>
彼女はそう言うと、機体を反転させて戦場に戻って行った。
戦場は今も、巨艦アレクサンドルによる圧倒的爆撃が続いている。
すでに中国軍は撤退を開始しており、米露共同の凄まじい追撃作戦が展開されていた。
<中国軍は国境を越え、カナダ国内に逃亡を図った模様。引き続き追撃したい。カナダ空軍に航空支援を要請されたし>
<中国軍人約五百名の捕虜を確保。これよりそちらに送りたい。受け入れ可能人数を教えてく…>
<G‐15地区の中国軍から白旗を確認!完全勝利だ!>
各地から続々と入ってくる報告はどれも華々しい戦果を伝えるものだった。
滝川は、ほっと息をつき、艦長席に座り込んだ。
荒木副艦長もへなへなとその場に座り込んだ。
終わってみれば大勝利である。ロシア帝国軍の援軍あってこその勝利とはいえ、歴史に残る名勝負だった。
そして、アメリカ合衆国と神聖ロシア帝国という二大超大国の歴史的共闘が行われたという事実がこれからの対“月”戦線にどのような結果をもたらすのか。
滝川は何か大いなる期待と不安を感じた。